【リスコミフォーラム ニュース解説】無審査遺伝子組み換え添加物

【リスコミフォーラム ニュース解説】無審査遺伝子組み換え添加物

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リスコミフォーラムは、メーカー、流通、メディア、消費者関係者、研究者の有志が集まった自主的な勉強会の活動で、2007年に発足しました。隔月に勉強会を開催していますが、その中で話題になったものを解説することになりました。
メディア情報では読めない様々な事情、その背景、何が問題点か、フォーラムのメンバーが詳しく説明していきます。

その一弾目は、「無審査遺伝子組み換え添加物」。
日本の食品規制、グローバル化とリテラシーの問題を考える上では好例でしょう。

無審査遺伝子組み換え添加物 【2012年2月4日 UP】

昨年12月、審査を受けていない遺伝子組み換え細菌を使用して製造された添加物が流通しているとのニュースになりました。次のような記事がヒットします。
朝日新聞 「無審査で遺伝子組み換え細菌=うまみ添加物、大量流通―厚労省」
http://www.asahi.com/politics/jiji/JJT201112050084.html (2011年12月5日時事通信配信)

~以下、記事から抜粋~
食品衛生法に基づく安全性審査を受けていない遺伝子組み換え細菌を使って発酵させた添加物「5’―イノシン酸二ナトリウム」と「5’―グアニル酸二ナトリウム」が大量に輸入され流通していることが5日、分かった。厚生労働省によると添加物はかつお節とシイタケの風味を出すため、たれやかまぼこ、ハムなどに用いられており、輸入量は年600~700トンに上る。 (中略)厚労省は添加物の販売取りやめを指示し、安全性審査の手続きを開始。「海外では広く使われており、安全性に問題があるとの情報はない」として、審査を通るとの見通しを示した。流通済みの加工食品の販売中止は求めない方針。キリン協和フーズが先月、無審査の添加物を使っていると同省に報告した。(中略)同社は「昨年10月に韓国企業側から情報を得た。厚労省への報告が遅くなったことはおわびしたい」としている。 ~抜粋終わり~

【In Short】
 この話は、添加物の製造に遺伝子組換えした微生物を発酵に使っていた場合には審査が必要ですが、その審査を受けていなかった輸入添加物品が流通していて問題になったというものです。つまり、海外では安全だと評価を受けてすでに使われているものですが、 日本では改めて審査を受けないとルールとしてはNG、ということです。そして、今回の添加物は安全性が審議評価されるまで輸入も使用も待ってくれ、ということになりました。

 遺伝子組み換えされた農産物の場合には、安全性を審査した上で輸入を認め、その旨の表示をすることになっていることはよく知られています。しかし、添加物の製造過程で遺伝子組み換えされた微生物を使用した場合にも同様に安全性の審査があることは、あまり広く知られていません。

 もう少し技術的に詳しく言うと、今回の問題の根本には、「セルフクローニング」と「ナチュラルオカランス」(注1)は遺伝子組み換え技術利用とはみなさないとする欧州の定義(おそらく韓国の定義も同様)とこれを遺伝子組み換え技術利用とする日本の定義の違いあります。 日本でも、過去においてセルフクローニングを理由として、安全性を審査せずに安全性を認めたことがあり、今回も誤解が発生したのではないかと示唆されました。海外では、セルフクローニングの場合、遺伝子組み換え技術ではないので、申請の必要がないのです。日本では、安全性審査が省略されることがありますが、申請は必要です。今回は、申請がないことが問題になったという訳です。
このニュースは、海外で安全性が認められたものが国内で流通した場合、どう対応を取ったらよいのか、どのように企業はリスクコミュニケーションを取るべきかのよい例でしょう。これからも海外からの原料の輸入に伴ったこういったケースが出てくる可能性が大いにあります。その点で、少し詳しくこの話を経緯と共に解説しようと思います。

(注1)
セルフクローニングとナチュラルオカレンス:セルフクローニングとは、同一種に属する生物間で核酸を交換することを指します。用いる遺伝子組換え技術がセルフクローニングに該当する場合、法の規制対象外となります。ナチュラルオカレンスとは、異種に属する生物間であっても、自然条件で核酸を交換することが知られている種間で核酸を交換することを指します。用いる遺伝子組換え技術がナチュラルオカレンスに該当する場合、法の規制対象外となります(引用:www.lifescience.mext.go.jp/files/html/6_24.html#04)

【経緯】
1.2011年11月下旬に、キリン協和フーズが輸入した核酸調味料が日本では未承認の遺伝子組み換え微生物を利用したものであったと厚生労働省に報告。

2.12月5日に厚生労働省が報道発表し、各社が報道。
この 12月の報道を受けて、添加物メーカー宛てに、他にも該当品がないのかという、厚生労働省(検疫所・保健所)からの通達が。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001wzcp.htmlそれと同時に食品安全委員会は、安全性には大きな懸念はないとの報道発表。安全性の確認は遺伝子組み換え食品等専門調査会で検討とする。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20111205sfc

3.12月15日に、生活クラブ生協が流通を許していることは問題であるとして厚生労働大臣と消費者庁長官に申し入れ。
http://tokyo.seikatsuclub.coop/news/2011/12/idenshi-tenkabutu.html

4.各地の検疫所で、問題のある添加物を使用した加工食品が輸入停止に。

5.12月16日、第99回遺伝子組み換え食品等専門調査会が開催されるが、データ不足とのことで安全評価できず。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20111216id1

6.各地の検疫所が輸入者に調査したところ、核酸調味料だけではなく、リボフラビンやキシラナーゼについても同様の問題があることが判明し、12月22日に下記追加報道発表。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001yz82.html
なお、キシラナーゼは、製造に係る詳細な情報を開発企業が保持していて、現時点で食品安全委員会の評価に必要な資料の入手が困難と報道発表。

7.1月12日に東京検疫所が説明会を開催 (配布資料のpdfはこちら)

8.1月13日の第100回遺伝子組み換え食品等専門調査会で、核酸調味料については、安全性を認め、リボフラビンについては、継続審議になる。http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20120113id1

9.1月19日に食品安全委員会が、上記の結果を受けて、核酸調味料の安全性につきパブリックコメントの募集開始。
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc8_gm66_inosinic_240119.html
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc9_gm67_guanyl_240119.html

10.1月19日の厚生労働省の輸入食品安全に関する意見交換会でも 話題に。
(2012年1月19日厚生労働省輸入食品安全意見交換会配布資料(3の1)のpdfはこちら)
(2012年1月19日厚生労働省輸入食品安全意見交換会(3の2)のpdfはこちら)
(2012年1月19日厚生労働省輸入食品安全意見交換会(3の3)pdfはこちら)

というのが現時点(2012年2月3日)での情報です。

 さらに、この件については、2012年1月30に日本消費者連盟「違法な遺伝子組み換え食品添加物の流通に関する質問状」 を提出しており、いくつかの動きもあります。 http://nishoren.net/food_safety/1538

【解説】
 安全だけれども国内流通の許可を得ていないものの「リスク」をどう考え、どのように制度を対応させたらよいのか。「違反」と呼ばれていても、ひょっとすると、今日のうちにも国内でも「安全です」という話になるかもしれない。TPPになるとこういうことがこの先も出てくる可能性が高いでしょう。実際、添加物のGM問題について大手流通はどこもノーマークだったという話です。厚労省、食品安全委員会、そして、表示を扱う農水省の対応が注目されます。

 なお、補足情報ですが、12月5日の厚労省からの通達では、海外から輸入される加工食品についても確認してくれとメーカーに要請がありました。 表示義務のある添加物だけでなく、キャリーオーバー(注:原材料に含まれているが、最終製品には影響を及ぼさないために表示を免除される添加物)や加工助剤(注 :製造の過程で使用されるが、最終製品には残留しないために表示が免除される添加物) までという、とても広い範囲です。ただ、該当品が無審査であるというエビデンスは要求していません。その一方で輸入業者の自己申告で、違反した(虚偽の申請をした)場合には罰金50万円ということになっています。なお、今回の回収では、該当企業は相当の費用をかけて該当商品を回収しています。

 このケースの背景にはいくつかの問題点が指摘されます。

1.海外で安全性を認められていても国内で改めて審査が必要という食品安全の考え方
 特に添加物は遺伝子組み換えに限らず、日本でだけ使用が認められていないものが多数あります。その実例のひとつが先日大手流通で回収のあった「ヒマワリレシチン」です。欧州ではGM由来原料を嫌う人たちとアレルゲンを回避したい人たちからレシチンの原料に「卵」や「大豆」「なたね」を使用することが避けられ、「ひまわり」由来のレシチンの使用が増えてきています。その一方で、国内では誰からも申請がないとの理由で、使用可能な添加物とはなっていません。そのため、欧州からレシチンを使用した食品を輸入しようとすると日本向け専用の仕様で製造をお願いすることになります。そこのところの確認のミスが回収原因でした。

2.健康危害がなくても回収という考え方
 安全なのに回収をするという日本の食品回収事情について、世界から見ると特殊であるとの報告があります。「やみくもな回収は消費者利益にならない」、と、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会 (NACS)は、「食のリコールガイドライン」を2010年から提案しています。その中で、回収の判断は消費者への健康危害の可能性で判断すべき、事業者は環境負荷、経済損失に配慮すべきであるなどがガイドラインとして提示されました(1月19日の意見交換会の資料にもあります)。例えばEUでは、健康に重篤な危害の可能性がある場合に回収するということが法制化されています。食品回収は消費者への健康リスクの大きさによって判断するという判断の根拠が明確になっていない事情も、今回のケースの根本にあるのではないでしょうか。

3.遺伝子組み換え技術についてのリテラシー
 冒頭の新聞記事は「遺伝子組換え細菌が流通」となっています。正確には「遺伝子組み換え微生物を使用して製造された添加物」です。「細菌」と「微生物」では受け取り方がかなり異なります。なぜこういった表記になるのか。やはり遺伝子組み換え技術についての説明、理解がまだ十分ではないことを示しているのではないでしょうか。

4.遺伝子組み換え技術の定義
 文中で引用した文科省のサイト(http://www.lifescience.mext.go.jp/files/html/6_24.html#04)によると、わが国においてもセルフクローニングとナチュラルオカランスは「遺伝子組み換え技術の範疇外」となっています。国内外の基準の違いだけでなく、国内の管轄官庁によっても何を遺伝子組換技術とするのかが違うということがあるようです。言葉の統一や定義の明確化が必要です。

 次回以降、こういった日本の様々な「リスク」事情について深読み解説していきます。
 どうぞ「リスコミフォーラム解説」をご購読、ご活用ください。

なお、Foocomの森田 満樹さんが「黄色い食品どうなる?未審査添加物リボフラビン問題」という好記事を書かれています:http://www.foocom.net/column/cons_load/5578/

リスコミフォーラムとは:http://literajapan.com/work/discussion

2012-02-04T16:45:35+09:00 2012.02.04|Categories: What's New|